魅入られて 4-3-2

仮説

3.逆翻訳・逆転写ウイルスが未発見だったのは、実在しないからだ。

 

 「病気」は検査されるが、幽霊を見たからといって、ウイルス感染を疑うことはない。頭の中身を疑われることはあるだろうが… 

 一見正常に見える人でも、実はこうした恐怖ウイルスの感染者の中に「霊的現象に遭遇しやすい人」がいても不思議ではない。

 特にヒトでは好奇心や連帯感、病気の看護に伴って感染の機会が増えるように思う。逆翻訳・逆転写ウイルスが存在するものとして、それはヒトに幽霊を見せるだけの存在なのだろうか。

 

 私にはそうは思えない。霊的存在になったり、逆にそれを怖がったりするのはヒトだけなのだろうか。そんなワケがない。ヒトは進化の過程で生じた種であり、その系統的進化から見て、ヒトだけが霊になったり魂を持ったりするのはおかしい… と。

 恨みをのんだヒトの幽霊譚はしばしば耳にするが、家畜のニワトリや豚や牛が化けて出た話は聞いたことがない。このことは、今までも「霊的存在」をヒト自身が創造しているからなのだ、と解釈していたし、広言してきたことでもある。

 

 つまり、ヒトを宿主とする逆翻訳・逆転写ウイルスが存在するならば、他の動物にも間違いなく存在する。つまり進化のどこかの過程で、逆翻訳・逆転写ウイルスが誕生し、おそらく「種の進化」に関わったのだ。

 

 その一環として、ヤツラはヒトにも感染しており、霊的存在を見せ、聞かせ、信じさせている。スリルを求め、みんなで怖いものを見に行くのも感染機会増加に役立つだろう。また不安を感じると交感神経系が興奮し、ストレスと本能に従った生殖行動が起きやすくなる。戦争の前後で出生率が増加するのは万国の常識である。

 

 では他の動物ではどうだろうか。他の動物も、たとえば天敵が近くにいるなどの不安を感じるとなんとなく集合し、「群れ」をつくる。

 加えてノルアドレナリンの作用で体表の血管の収縮することにより血流量が下がり、ほんの少し酸素欠乏気味の細胞が悲鳴をあげるのだ。レイの話によれば、それはウイルスを心地よく刺激し、感染意欲を誘うのだろう。

 この種のウイルスはどんな動物にも、おそらく広く感染しているのだ。

 

結論:きちんと研究されていなかったから見えていなかったのではないか。証拠こそ持ち合わせてはいないが、逆翻訳・逆転写ウイルスは実在すると考えても非合理的ではない。

 

仮説

4、霊的現象は、すべて逆翻訳・逆転写ウイルスの感染による病気の症状である。

 

 逆翻訳・逆転写ウイルスは、ヒトの恐怖感を煽り、ヒトは勝手に幽霊を想像してしまう。白日夢や夢などの一部もこれに当たるかもしれない。しかし全てをこの仮説で説明するには無理がある。逆に、

 憑き物筋=ウイルス感染家系=見える人家系

 犬神憑きや(男系の)祟り伝説

 霊媒

などの話は、これらウイルスの親から子への垂直感染ではないかと容易に想像できる。

 

 また憑き物や霊媒は家系、日本では主に男子家系だと信じられてきたが、実は女系なのではないのかとも疑える。Y染色体一本の縁よりも染色体一セット(ゲノム)分の体質とウイルスと考えた方が、はるかに無理が無いだろう。ただし結論を出すにはデータ不足であるが…

 

 ただ… 気のせいだけで片付けるのには無理がある。例えば… 近頃では監視カメラなどが発達している一方で、どう細工のしようもない現場と場面で「ポルタ―ガイスト」や「オーブの乱舞」などが記録されているのも、動かしがたい事実である。ただしこれが「幽霊」の仕業であるかは不確実である。

 不可思議な説明できない現象までは、ここでは追及しなくても良いかと思い、あいまいなままにしておこうと思う。

 世の中ミステリーもロマンも必要だし… ねっ!

 

結論:基本的には幽霊は実在しないが、例外があることも否定しきれない。

 

仮説

5、幽霊は心霊スポットに棲んでいる。

 

 いわゆる心霊スポットといえば、トンネルや廃墟が定番だが、他にも祠(ほこら)や慰霊碑、禁断の箱などの容器、仏像、歯、髪の毛、ミイラなどの偶像がある。生き物としてはや狐、狸、蛇、伝説的な蠱(こ)などが挙げられるかもしれない。これらを囲い込むときにはしばしば結界が用いられ、なぜか絶対的なバリアになっていることが多い。

 

 しかし… 結界とは言っても、せいぜいのところ「しめ縄一本」でそんな万能バリア的なことが可能なのだろうか。

 

 心霊スポットは普通ただでさえ物寂し気な場所にあり、人混みのなかには無い。幽霊をヒトの脳が勝手に見るものとすると場所は問題ではなく、「場所や偶像の雰囲気や評判」が心霊を見せていることがわかるだろう。後期のエイズでは、普段誰もが持っている細菌やカビが日和見(ひよりみ)感染を起こすことが知られているように、「恐怖タンパク」が常に過剰な方には、メンヘラ等何らかの症状が出ている可能性がある。

 

 生き物はズバリ感染生物であろう。

 

 結界の効果はわからないが、たぶん無効かプラシーボ(偽薬)程度のものだ。

 

 ウイルスにとって最も困る事態は、医療技術の向上または免疫細胞に、感染が発覚して駆除されてしまうこと。したがってウイルス全般としては科学の発達は望んでいないが、中にはレイのように知的好奇心が強いものもいるかも知れない。ただしウイルスの思想や意見が宿主の脳に依存する可能性は否定できない。

 

 ミキには元々爬虫類等を宿主とする蛇ウイルスが感染しており、一時は「苦しむエネルギーを利用する」意味でレイと利益が合致したが、私を告発した後はレイと手が切れた形になっている。それが本当でも嘘でも、おそらく私は何らかの手段で監視されているだろう。

 

 レイをハリガネムシとすると、私はカマキリの存在である。レイの存在によって、私の脳内における「ウイルスとの会話が不完全ながらも可能」になり、今はレイの意思表明の手段として文章を書かされている… というのが私の推論である。

 

 そういえば、今まで文章書いてみようなんて思わなかったもんな…

 

結論:動物が幽霊(ウイルス)の棲み処、つまり感染源。植物は考慮の材料がない。

 

仮説

6、レイおよび「レイの記憶と怨念」の正体は逆翻訳・逆転写ウイルスである。

 

 ここまで考えたら、今度は「レイの正体」が気になってきた。私の数代前の先祖が犯して殺したのがレイだとすると、百歳を軽く超えることになる。見た目はせいぜい16~18歳、つまり未成年でしかない。

 そっか、見た目は私の脳の産物だから無視しなければならないな。

 

 レイはレイそのものではなく、ウイルスに操縦された私自身恐怖タンパク質の産物だとすると、「レイの記憶と怨念の正体」は何だろう?

 

①レイは犯されるとき、恐怖を感じたに違いない。

(この仮定にさえ嫉妬を感じる自分に驚いたが…)

②レイの脳で恐怖タンパクが合成され、すでに感染していたウイルスがこれを逆翻訳&逆転写する。

③生じた恐怖DNAの一部がヒトDNAに組み込まれる。

④③のDNAを活用して、将来子ウイルスが生じる。

 

 ん、ちょっと待て…

 

 あれ、おかしいぞ… 

このままでは怨念の「記憶を持ったウイルス」はできないじゃないか? 

 

何度も考え直してみた。

 

おお、そっか…

 

 犯される時間の長さと被害者の感情や性格によっては「恨みや怨念の記憶」を意味するタンパクができる可能性がある…としたら、どうだろうか。

 

 ちょっと大胆すぎる想像かもしれないけど。

 すると②以降を変える必要があるだろう。つまり、こうだ。

 

①レイは犯されるとき、恐怖を感じたに違いない。

②レイの脳で「恐怖タンパク」と「怨念の記憶を持ったタンパク」が合成され、すでに感染していたウイルスがこれらを逆翻訳&逆転写する、と修正した方が良い。

③生じた恐怖DNAと怨念DNAの一部がヒトDNAに組み込まれる。

④③のDNAを活用して、将来子ウイルスが生じる

 

 これなら… 怨念の記憶をウイルスが持つことを説明できそうだ。しかしこの仮説が正しいとすると…

 レイの人生の最後が一層哀れに思えてくる。

 

 ウイルスの増殖は速いが、それでも一瞬で増殖できるワケではないからだ。「怨念」がウイルスに記憶されたということは、レイが生きている状態で犯され、その後殺されるまでに時間がかかったことを意味している。レイは確かに「復讐」だと言っていた。

 

 ウイルスの増殖時間なんて…

自分の僅かな知識をスキャンしてみても、そんなものは… ない

 

 …いや、あった。

大腸菌を宿主とするウイルス、バクテリオファージ(T2ファージと記載されている場合がある)で、最速の条件で確か20~30分ほどだったはずだ。それが1個でなく少なくとも百万個レベルまで増殖するには…

 

 レイ、可哀想に… レイはどれだけ苦しんだの? 考えるだけで痛ましかった。

 

結論:レイおよび「レイの記憶と怨念」の正体は「逆翻訳・逆転写ウイルスの作ったタンパク質またはDNAやRNAである」と考えると、合理的に説明できることが多い。

 

 … 知らぬ間にドドンと疲れていたようだ。

気付いたら起きた瞬間だった。いつの間にか眠り込んでしまっていたようだ。

 

 うっ やばい… あと15分で事情聴取の時刻だ!

仕方ない、今日は発熱したことにしておこう。もう、おやすみおやすみ!

 鼻つまんで、弱弱しそうに電話しとくか、 あ~あ…