魅入られて 1-5-1 交際

5節 交際

他には考えられなかった。
返信は…とりあえずこうやるのかなぁ?

「アキ… だよね」
『正解です』
「やったぁ」
「当てたごほうびは?」
    【写真:アキ、ユリ、アカネ、カナの写真。背景はお城】
『あ、去年の夢の国』

「スカウトされそうだね」
『耳も付けてましたよ』
「これ耳無いよ」
『ですね』
「ご、ごほ ごほ ごほ ごほうび」
『なんだなんだ』
「ついでに耳付きプリーズ」
    【写真:バンダナカチューシャの耳をつけたアキの写真】
『暑かったけど楽しかった』

熱中症になる自信ある私」
『ヘーキヘーキ。体育館でバドやるんだよ』

そりゃそうかもな。真夏の体育館というだけで、私は卒倒できる。この娘たちは、そこでバドミントンをやるのだ。ラケットを振るだけでなく、走る停まる振るの繰り返しだ。
『今日も部活あったし』
トドメを刺された気分だった。

夜になってアカネからSMSに連絡があった。
スマホになりましたか。部活でへとへとです』
「なったよ」
『ラインで電話番号検索しました』

「おう、来たから承認」
『こんばんは、ラインでもよろしくお願いします』
「初めまして、こちらこそ」
『今日自己ベスト出ました!』
「やったね、カンパイ!ジュースで」
『ええっ? スタバでおごるって? やった!』
「だれがそんなこと」
『高山先生、アカネのスマホには届いてるよ』
「こらこら!」
『バレたか、てへっ w@_@w』

「課題できた?」
『忘れてた 今から!』
「思い出せて良かったじゃん」
『なんで思い出させたの』
「わりぃなぁ、ふぁいと」

 くだらない会話… しかも実際の文は、遅くて誤字脱字に誤送信だらけだった。


 そして二学期が始まった。

 

 
 課題テストが終わった日、アキからスタンプが送られてきた。
    【スタンプ:カエルがOKマーク】
「ユリどのに追及された。アキとラインしたでしょ?ってさ」
『ユリとはしてないの?』
「うん。先生とラインはしないって宣言された今日。別に誘ったワケではないが…」
『そうなんだ』

 

「なんか敗北感あるな」
『アキには勝ちましたか?』
「え? 黒縞どのはそもそも味方だろ?」
    【スタンプ:いやだ…と言ったら(蔵馬)】

 

 今日ヨメ殿に教えてもらい、セリフが音として出るタイプのスタンプをスマホに入れたのを思い出して、初めて使ってみたのだった。(蔵馬)とは、アニメ化もされた某コミックの登場人物である。
『ん (笑)(笑)』
    【スタンプ:おやすみなさい】

 

 翌日、起きて物珍しくスマホを弄りだした。おお、きのうはスタンプを調達したんだっけな。
あれ音出るし、楽しいし… 
やばっ、送ってしまった!
    【スタンプ:なめるなよ(飛影)】
「ゴメン、誤爆だ。音声で遊んでたら、知らず送信してた」

 

しばらくして、返信アリ。
『ナメてますm(__)m ペロ。』
「自己反省」
    【スタンプ:本当にバカなんだから…(蛍子)】
『かまいませんよ~(笑)』

    【スタンプ:そんなお前が好きだ(鴉)」
『!喜喜!』


「楽しいな。なんか妙にツジツマが…」
『楽しかった!』
    【スタンプ:うむ!(幻海)】

 

「そういえば黒縞どの、何て呼べばいい?」
『アキ でお願いします』
「おけ! 今宵はおやすみ、アキ」
こうして失敗しつつも徐々に操作も慣れ、ライン会話が始まった。

 

楽しかった。

 

翌日も、翌々日も会話は続く。途切れないように、アキは必ず連絡をくれた。
『昇センセ、おうち着いた?』
「着いたよ、風強いね」
『アキもおうち。センセ飛ばされないでね』
「風になって… どこ飛ぶか?」
『夢の国まで飛んでいけ』
「ホンコンの?」
『そっち?(笑) アメリカ!』
「おお、パリ!」
『え~っ』
「フランス語ふぁいと!」
『むー』
「はいはい、良い娘は怒らない。シワが…」

 

『まだJKだからシワなんてないよ、ごめ~ん』
「どのキャラ推し?」
『ダッ●ィとミ●ー』
「ダッ●ィって誰?」
『夢の国のくまさん』


 パソコンで調べた。へぁ、こんなのいるんだ。写真に撮って送ってみた。

おお、できるじゃん!

 

「この顔か?」
    【写真:ダッ●ィ】
『その顔だ』
「ミ●ーさんも可愛いね」
『うん 大好き!』

「食べちゃいたいくらい?」


『ヒド…  not ヘビさん』
「ふふふ、冗談だってば、ごめん!」
『許さん! 笑笑』
「参った 座布団三枚!」
『それ違くない?』

 

「ひひひ、風に乗ってどこ行くの」
『センセっち、どこ?』
「ああ、快晴高校のすぐ近く、400歩」
『アキのおうちは、駅南イオン近く。250歩くらい』

 

「今日の風向きじゃ無理か」
『なにが?』
「家庭訪問」
『来る?』
「行かねぇよ」

 

『なんだ』
「えっ!? お- まいがっ! 行っちゃおうかな」
『窓開けとくから』
「おい、鳥じゃないぞ」
『ちょっと3mの高跳びでOK。音立てたらアウトね』

 

「そうだ、今日は何であんなところに?」
『ん(笑) ヒ ミ ツ』

 実は… この日帰り際の暗い校舎の階段を下っていくとき、上靴を履いていない彼女とすれ違ったのである。つまり、彼女は階段を静かに昇っていくところだったのだ。私は暗いところは平気だし、むしろ消灯しながら帰るのだが…

 

「わ、ちょっとびっくり…」

『ん… あ、こんばんは、センセ』

「もうだれも居なさそうだよ、もうお帰り」

『うん… 見てみたら帰るつもり、一応』

「そっか、足元気をつけなよ、暗いから。電灯つけるさ。じゃぁね」

『うん、ありがと、センセ』

 

 そんなふうに挨拶だけはしたけど、どこへ何をしにいくのか、私にはさっぱり分からなかった。

そもそもここより上には消灯された部屋があるだけで、人気(ひとけ)はないので、ちょっと気にはなっていたのだ。

だから… もしかしたら私に会いに来たのかもしれないな… そう思って、少しにやけてしまったのが本心である。


しかし… なぜかこの日の会話はここで途切れた。

 

また別の日には…
『こんばんは、ごきげんいかが』
「こんばんは。ゴキゲンわるい… なんてね」
『じゃ、話して機嫌直して。センセ、好みの女の子タイプは?』
「楽しくて話が弾む娘だな。外見よりも」
『アキは?』
「楽しいな」
『見込みある?』
「毎日話してる」

 

『身長とか顔とかは』
「特になし。敢えてなら小柄がベター」
『髪型は?』
「こだわりないけど、ポニテツインテとかは好感」
『運動部か文化部系なら?』
「文化部オタク系」
『キレイ系? 可愛い系?』


「可愛い系。じゃアキの好みは?」
 このあと「アキの好み」の答えが息もつかせずビッチリ八行ほど続くのだが、敢えて略す。
まとめれば、同年代より年上好み。性別を問わす、可愛いヒトが好きなようだ。

 

『アキの血液型は何型でしょう?』
「んんん、データ不足」
『え、ズルい』
「まだよくわかんないよ」
『そっか』
「でもB型かな?」

『あたし話したっけ?』
「んにゃ」
『正解。センセはO型だったよね』
「そこは寝てなかったか…ホメホメ」


『じゃ誕生日当てて』
「わ、プライバシバシ バレてもいいの?」
『ならまず星座で』
「アキは名前どおり秋生まれかな? じゃさそり座!」
『え、ビンゴ! センセは?』
「実はだね、うっ」
『じつは?』
「し」
『し?』
「し」
『し?』
『あ、しし座?』


「うっしっしっしっし 大笑い」
『ねぇなに おうし座?』
「どれがいい? ギョウザ、ヤクザ、オリオン座」
『そんなのある?』
「ない。しし座だよ ちょっとふざけた」
『ひどい』


「身体はオトナ、頭脳はコドモ。あの名探偵の逆だ」
『センセ五ちゃい』
「子供っぽい性格」
 …
「あれどしたん?」
『アキも都合悪いときもあるの』
「ゴメン、言いがかり。わかってる勉強だろ ← ハズレ(笑)」
『ハズレが正解(笑)』


 会話は毎日続き、私はその楽しさにぐいぐい引き込まれていった。

止められないくらいに。